特許を取得したASUS独自のプロセスにより、液体金属のサーマルコンパウンドを新しいROGゲーミングノートパソコンに採用
冷却はゲーミングノートパソコンが直面している最大の課題の1つであり、ROGは常に改善策を模索しています。このイノベーションへの意欲から、CPUと冷却モジュール間の熱移動を効率化し、性能の向上、温度の低下、ノイズの軽減の余地を確保する液体金属コンパウンドが誕生しました。この新素材は、第10世代インテルCoreプロセッサを搭載したROGゲーミングノートパソコンの2020年ラインナップすべてに採用されています。
オーバークロッカーやマニアの間ではかねてから液体金属がハイエンドマシンで使用されていましたが、一般的には手作業で塗布するものであり、大量生産には適していません。私たちは、1年以上にわたって、液体金属の塗布を大規模に行える独自のプロセスとマシンを開発してきました。ここでは、ASUSがどのように液体金属を大量生産に適用しているのかについて紹介します。
液体金属とは
液体金属は融点が低く、室温で液体になります。これらの合金は伝導率が高く、プロセッサのダイ、ヒートシンクなどの表面の熱エネルギーを極めて効果的に伝達できます。その利点は、オーバークロッカーや自作PCの愛好家の間で定評があります。社内テストでもゲーミングノートパソコンへの適性の高さが実証され、CPUによって、温度が10~20°C低減されることが確認されました。
熱伝導の高さから、さまざまな方法での利用が見込まれます。低温化により、プロセッサのクロック速度をより長い時間、より高く維持でき、ファンが高速回転して騒音が発生することもありません。また、この熱の余裕を利用することで、さらなる周波数の高速化、高性能化が可能です。
液体金属の特性はプロセッサにかかわらず一貫していますが、私たちの研究では、インテルのCPUで最大の効果が得られることが判明しています。ダイは小さく、チップの8つの領域に熱が集中します。また、CPUパッケージの周りには安全地帯があり、ここには導電性材料との相性が悪い表面実装部品は配置しません。私たちは、最大の効果を発揮し、最も信頼できる場所に液体金属を使用したいと考えています。
市場にはさまざまな種類の液体金属が存在します。ASUSがThermal GrizzlyのConductonautを使用しているのは、スズ、ガリウム、インジウムなどを特別配合したConductonautが、非常に高い熱伝導と長期安定性に優れている為です。プロジェクトを極秘裏に進めるため、他のパートナーと同じようにThermal Grizzlyと緊密に連携する代わりに、初期量を一括購入しました。開発中はインテルでさえ私たちの計画を把握していませんでした。
英知を結集
私たちは液体金属の研究をさらに進め、コンパウンドの特性が製造での実現性にどのように影響するのか調査しました。液体金属はアルミニウムと反応するため、ヒートシンクや生産ラインで使用できる材料が制限されます。厚みのあるサーマルペーストと異なり、液体金属は文字通り液状で、CPUに慎重に載せたとしても流れてしまうことがあります。そのため、液体金属の塗布は従来、手作業で慎重に行わなければなりませんでした。PCの自作やチューニングを行う個人は1、2個のチップしか取り扱わないため、この方法でも問題ありませんが、ROGで製造する大量のノートパソコンに対応するには、自動化が不可欠です。
ASUSは、最適性能に必要な塗布を徹底する2段階の方法を開発しました。このプロセスでは、コンパウンドをダイに塗布した後、追加で注入を行い、適量を確保します。カスタムマシンにより、これら2つの手順を機械の正確さで実行します。
最初の手順は塗布です。アームがブラシを液体金属に浸し、CPUの上を滑らかに往復します。これをぴったり17回実行します。これは、私たちの包括的なテストで導き出された、塗布を完全なものにするのに理想的な回数です。マシンは、単に往復するのでなく、人の動きをまねて、垂直方向にも動き、小さな弧を描きます。
通常、液体金属を手で広げる場合は綿棒を使用しますが、コンパウンドが綿棒に吸収され、形が変化してしまいす。私たちは複数のベンダー、30種類を超えるブラシで実験を行い、長期使用に最も適した形状と材料を特定しました。最終的に、長期間の暴露でも変形や劣化のないシリコン製のブラシを採用しました。
プロセッサの縁部への蓄積を最小限に抑えるため、最初の塗布では、2回目以降とは異なる表面にブラシが当たるようにします。また、ダイをステンレス製のシムにセットして、余分なコンパウンドが周囲に広がるのを防ぎます。このシムは当初、マザーボードに取り付けられていましたが、最新のものは小さく、CPUパッケージに直接取り付けられるため、同一世代のさまざまなノートパソコンで使用できます。
適用量を最適化
液体金属の最適な量を特定するため、私たちは何度も社内テストを行いました。少なすぎれば熱伝導の効率が低下し、多すぎれば漏れる可能性が高まり、高価な材料が無駄になります。最初の段階で十分に塗布せずに、2台目のマシンでダイの2箇所にコンパウンドを追加注入するようにしました。最初の被膜による表面張力によって、追加分はブラシなしで広がります。
第2段階に適切な部品を見つけ出すことは、このプロジェクトで最も大きな課題の1つでした。既製の部品を使用することもできましたが、液体金属を入れるだけでなく、正確な量を確実に投与できる部品を調達するのは極めて困難でした。コンパウンドとの反応を防ぐため、シリンジとポンプはステンレス製です
液体金属は粘性が低く、厚みのあるサーマルペーストよりもずっと流れやすいため、専用のスポンジをダイの周りに配置することで、液体金属の漏出と隣接回路のショートを防ぎます。この特注の防壁は、ダイ自体の高さとほぼ同じわずか0.1mmのヒートシンクとCPUパッケージの間にあるわずかなスペースにぴったりと収まります。私たちは、ヒートシンクとプロセッサの接触を損なわずに、液体金属の流出を防ぐため、スポンジの厚さと密度のバランスをとるのに長い時間を費やしました。
インテルのCPUのダイの周囲には、コンデンサを配置してはならない領域があります。スポンジはこのスペースにぴったり収まりますが、他のプロセッサの同じ領域には表面実装回路があり、導電性コンパウンドと接触するとショートするおそれがあります。私たちは現在、この問題を防ぐ絶縁方法を探求しています。有望な方法はありますが、まだ大量生産の段階ではありません。
金属を巧みに利用したROG
ゲーミングノートパソコンの冷却の向上を追求し続けるASUSの液体金属プロジェクトは、現在も進行中です。昨年発売したROG Mothershipは、この技術を利用した初のシステムでした。生産を限定することにより、最初の塗装を手作業で行う初期のプロセスを試験的に試すことができました。効率を高めるため、ブラシによる塗布を自動化し、シムを再設計してさまざまなマザーボードに対応させることで、第10世代インテルCoreプロセッサを搭載したROGゲーミングノートパソコンすべてに液体金属を採用することができるようになりました。
液体金属プロセスとスポンジに関する特許は、ROGがゲーミングノートパソコンにもたらし続けるイノベーションの現れです。優れたサーマルコンパウンドで冷却性を高め、性能、温度、音響効果を確実に向上します。ASUSは、オーバークロッカーの世界でのみ使用されてきた液体金属をより多くのユーザーに提供します。
Thermal GrizzlyのConductonaut液体金属を採用したROGラップトップは、今年の第3四半期に発売される予定です。価格および発売に関する詳細については、お近くのROG販売代理店にお問い合わせください。また、ASUSの2020年ゲーミングノートパソコンガイドでラインナップを紹介しています。